2012年。私が劇場で観た作品は,昨年と同じで54本でした。
一番仕事がつらい時期に最も頻繁に映画館に行っている… やはり映画は私にとって,癒しの存在なのでした。
さて、毎年恒例の私的映画賞。発表させていただきます!
最優秀作品賞:
『少年と自転車』(ジャン=ピエール・ダルデンヌ 、リュック・ダルデンヌ監督:ベルギー/仏/伊)
優秀作品賞:
洋画部門『ル・アーヴルの靴みがき』(アキ・カウリスマキ監督:フィンランド,独,仏)
邦画部門 『かぞくのくに』(ヤン・ヨンヒ監督:日本)
2011年は最優秀作品を選べずでしたが,今年も選考に難航。最終的に選ばれた『少年と自転車』は,決して楽しいストーリーではありませんが,きちんと希望も見せてくれる,そんな作品で,小品ながらも私にはとても印象的な一本になりました。カミソリのような少年が傷ついてもがく姿に胸が締め付けられ,大人の身勝手さにやるせない気持ちにさせられました。
優秀作品は2本で,これまたどちらも地味な作品です。
『ル・アーブルの靴みがき』はやや強引な展開に賛否両論ありますが,押しつけがましくない優しさを,押しつけがましくなく表現しているんだと,私は評価します。
『かぞくのくに』は在日コリアン2世のヤン・ヨンヒ監督が自身の実体験を基に書き起こした作品です。国家感,人生観について,深く深く考えさせられます。井浦新と安藤サクラの演技も素晴らしい。『息もできない』のヤン・イクチュンもほんとにイイ役で出演しています。
主演男優賞:ドミニク・クーパー(『デビルズ・ダブル ある影武者の物語』)
助演男優賞:香川照之(『鍵泥棒のメソッド』)
ウダイ・フセインとその影武者の二役を演じたドミニク・クーパーが主演男優賞です。
見事に演じ分けていて,本当に二人いるかのように感じました。そして何よりカッコイイ!トレンチコート姿なんて,本当に目の保養です。次回作が楽しみ。他に候補になったのは,『ミッドナイト・イン・パリ』のオーウェン・ウィルソン,『さあ帰ろう、ペダルをこいで』のミキ・マノイロヴィッチ,『ヒミズ』の染谷将太。
助演男優賞は,記憶喪失になる殺し屋?を演じた香川照之。歌舞伎役者も頑張ってほしいとは思うけれど,やはりこの人ありきの日本映画界です。ほかに,『The Lady アウンサンスーチー ひき裂かれた愛』でスーチーの夫役を演じたデビット・シューリスも候補に。
主演女優賞:ミッシェル・ヨー(『The Lady アウンサンスーチー ひき裂かれた愛』)
助演女優賞:ブライス・ダラス・ハワード(『ヘルプ~心がつなぐストーリー~』)
助演男優賞の候補になったデビット・シューリスもそうですが,もちろんスーチー役のミッシェル・ヨーも素晴らしかった。落ち着いた声や毅然とした態度,国と同じように家族を大切に思う気持ちを控えめに演じていました。本作もこの年の掘り出し物と言えるかも。ほかに,『夢売るふたり』の松たか子も候補に。西川美和監督の容赦ない脚本に,体当たり演技。とっっっても怖かったです。
助演女優賞は,私の即決でした。『ヘルプ~』はアカデミー賞でも話題になったので期待していましたが,作品としてはいまひとつ感情移入できず。でもブライス・ダラス・ハワードの憎たらしさといったらピカイチでした。神経質そうな役柄を演じるならこの人かも。この路線で突き進んでほしいです!他に『少年と自転車』のセシル・ドゥ・フランスも好演でした。
監督賞:ベン・アフレック(『アルゴ』)
スミマセン,正直ずっとバカにしてました。だから見直したよ,ベン。これからも,『アルゴ』みたいな緊張感あふれる良作を作ってください!米アカデミー賞の監督賞ノミネートからは外れてしまったので,私たちが謹んで贈呈いたします。ほかに,『ル・アーヴルの靴みがき』のアキ・カウリスマキ,『ミッドナイト・イン・パリ』『恋のロンドン狂騒曲』のウディ・アレンも候補に。
脚本賞:『ミッドナイト・イン・パリ』(ウディ・アレン脚本)
他に,『スーパー・チューズデー ~正義を売った日~』(ジョージ・クルーニー他脚本),『最強のふたり』(エリック・トレダノ他脚本)も候補に挙がりました。『最強のふたり』は確かによかったけれど,「生涯の一本になる」という宣伝文句はやめたほうがいい,と思う,素直でない私たちなのでした。
撮影賞:『テトロ 過去を殺した男』(米/アルゼンチン/スペイン/伊)
『アーティスト』(仏)
『テトロ~』は,過去がカラーで現在がモノクロという,独特の世界観だそうで。『アーティスト』は,サイレントからトーキーに移り変わる時代のテーマに,こんなふうに映像を合わせるのかと,えらく感心しました。
新人賞:エズラ・ミラー(『少年は残酷な弓を射る』)
するどく冷たい目つきが忘れられない。今後この殻をどう破っていくのかに注目される。
音楽賞:『ジーザス・クライスト=スーパースター アリーナ・ツアー2012』(英)
『レ・ミゼラブル』(英)
どちらも超ロングランミュージカルがもとなので,映画オリジナル楽曲でないのは残念だけれど。
審査員特別賞:作品部門『映画と恋とウディ・アレン』(米 ロバート・B・ウィード監督)
俳優部門 トム・クルーズ(『ロック・オブ・エイジズ』)
あのウディ・アレンのドキュメンタリー!ということで,楽しみにしていました。本当に“あの”ウディがよくドキュメンタリー撮らせたな,という感じです。これまでウディ作品に出演した数々の俳優がインタビューに答えたり,製作過程が映し出されたり,ウディやウディ作品ファンなら必見です。毎年1本という驚異的なペースでオリジナル脚本作品を撮るウディ。そしてそのどれもが軽妙洒脱。頭の中,どうなってるんだろ。
『ロック・オブ・エイジズ』のトムはロックンローラー!なんだかんだ言っても,この人はスター性があるね。
ラジー賞:『ローマ法王の休日』(伊)、『まだ,人間』(日)
『ローマ法王~』は作品がひどいというよりも予告編の作りに騙されたといったところ。『まだ,人間』は東大出身の元芸人という人が監督した作品だけど,完全に独りよがりの演出でした。
2012年も前年に続き当たりが多かったとは言えないけれど,小品に満足できた年でもありました。
今年はどんな作品に出逢えるかな。楽しみです。