2015年,私が劇場で観た作品は40本。
映画情報はだいたい目を通しているけれど,見に行けないつらさ…
さて、毎年恒例の私的映画賞,2015年はこのように相成りました!
最優秀作品賞:
『おみおくりの作法』(ウベルト・パゾリーニ監督・脚本:英・伊)
優秀作品賞:
洋画部門『黄金のアデーレ 名画の帰還』(サイモン・カーティス監督:米・英)
邦画部門『あん』(河瀬直美監督:日本)
最優秀賞,優秀賞候補がいくつか挙がる中で,最終的にはこのように決まりました。『おみおくりの作法』は1月に公開された作品ですが,観た直後に「今年これを超える作品はもう出ないかも…」と心配になりました。身寄りのない人の葬儀を行う公務員の男性を描いた,ある意味,とても地味な作品です。劇中,主人公の上司の,「葬儀は(死んだ人のためでなく)残った人のためのもの。死者に〝思い”なんてないんだ。」というセリフがありますが,そのロジックとラストシーンとのオーバーラップが素晴らしかった。映画だからこそ描けたのだと思います。
優秀作品の洋画部門はナチスに奪われたクリムトの名画を取り戻す女性の実話。邦画部門は樹木希林主演,河瀬直美監督の『あん』。元ハンセン病患者の女性の生きる姿を描いた良作です。河瀬作品は実はあまり得意でなかったんだけど,これは見てよかったな。樹木希林もさすがだけど,永瀬正敏の表現力もなかなかのものでした。
ほかに候補に挙がったのは,『イミテーション・ゲーム』『ぼくらの家路』『Mommy』『エール!』の4本。どの作品も素晴らしい!
主演男優賞:ベネディクト・カンバーバッチ(『イミテーション・ゲーム エニグマと天才数学者の秘密』)
助演男優賞:マーク・ラファロ(『フォックスキャッチャー』『はじまりのうた』)
主演男優賞はとにかく私の一押しで。『イミテーション・ゲーム~』は作品が捉えるテーマが幅広く,見ごたえがありますが,中でも彼の演技には圧倒され,正直震えました。演技というものの奥深さを見せてくれたことに感謝したいです。米アカデミー賞の主演男優賞にもノミネートされましたが,受賞はALSの物理学者ホーキング博士を演じたエディ・レッドメインでした。エディが悪いとは言わないけど,ここは間違いなくカンバーバッチが選ばれるべきだったと思っています。
ほかに主演男優賞には,『ヴィンセントが教えてくれたこと』のビル・マーレイ,どうやら今作でボンドも終わりのダニエル・グレイグ(『007スペクター』)が候補に。
助演男優は『キッズオールライト』の気の毒な役から5年…ここまで来たぜマーク・ラファロ。いやいや彼はいい役者です。上記2作品も魅力満載でしたよ!ほかの候補は『日本のいちばん長い日』で昭和天皇を演じた本木雅弘。
主演女優賞:ヘレン・ミレン(『黄金のアデーレ 名画の帰還』)
助演女優賞:スザンヌ・クレマン(『Mommy/マミー』)
主演女優賞は大女優ヘレン・ミレン。この作品は,ナチスとクリムトがキーワードではあるけれど,82歳の老女(とても老女なんて言えない風貌だけど)と新米弁護士のチームプレーを描いた人間ドラマでもある。よくよく作られた逸品に風格を与えたのがヘレンなのだ。主演女優候補は『わたしに会うまでの1600キロ』『グッド・ライ』のリース・ウィザースプーン,『アデライン,100年目の恋』のブレイク・ライヴリーの二人。
助演女優は,ちょっとマニアックですみませんが『Mommy』で高校教師の物静かな女性を演じたスザンヌ・クレマン。隣人親子と関係を築く微妙な役柄を,陰を見せつつうまく演じていました。ただしほかにも,『Dear.ダニー』のアネット・ベニング,『アクトレス』『アリスのままで』のクリスティン・スチュワート,『ソロモンの偽証』の永作博美,『Re;Life』のマリサ・トメイ,『サヨナラの代わりに』のエミー・ロッサムとここは候補が多かったです。
監督賞:エリック・ラルティゴ(『エール!』)
この作品は掘り出し物。聴覚障害の家族の中で歌の才能を認められる少女を描いた作品で,役者も歌もよかったのですが,全体的に明るいイメージなのは監督の力によるものが大きいのかも,ということでこの賞を。もう一本,ネグレクトの母親や自分勝手な大人に翻弄される幼い兄弟を描いた『ぼくらの家路』も,ラストで子どもの可能性をはっきりと見せたエドワード・ベルガー監督の手腕が光りました。途中まで,なんでこんなことするの,子どもはこんなに健気なのにと思っていましたが,ラストで少し救われた思いでした。
脚本賞:『あの日のように抱きしめて』(クリスティアン・ペッツォルト監督・脚本)
若干ストーリーに無理がないだろうか…と思いながら見ていましたが,ラストで納得。愛した分だけ苦しみは深く,女の信じたい気持ちと男の背徳感とが交差する後半は素晴らしかった。ラストに歌う〝スピークロウ”で砂時計の砂がすべて落ちたような,そんな作り。
ナチスやアウシュビッツをテーマにしながらもホロコーストの残虐なシーンがないという『顔のないヒトラーたち』,銃乱射事件で息子を亡くした父親がある青年とバンドを結成し,意外に展開していくストーリーの『君が生きた証』も,脚本が秀逸でした。
撮影賞:『FOUJITA』(日仏)
画家の藤田嗣治の生きた時代を描いた作品。シーンひとつひとつが絵画のように美しいとか。
新人賞:アントワーヌ・オリヴィエ・ピロン(『Mommy』)
きれーな顔…でもかみそりみたいで末恐ろしい,一方で寂しげではかない,難しい役だったと思う。フレームワークのアスペクト比を変化させて人物の心情を表す監督の技法によるものも大きかったと思うので,彼の俳優としての今後の挑戦に期待したい。
音楽賞:『はじまりのうた』(米)
ニューヨークの街並みと,キーラ・ナイトレイ,マーク・ラファロの歌声がおしゃれにマッチして楽しい作品。何度も聞きたくなる。まさに音楽賞!
少年合唱団を描いた 『ボーイ・ソプラノ』や『リトル・ダンサー』を基にしたミュージカル『ビリー・エリオット』も候補に。
審査員特別賞:アル・パチーノ(『Dearダニー』)
〝おもしろくてダメな情けないおじさん”を演じたアル・パチーノ御年75歳がすごい。もうギャングとか警官とかやめてこっちで本領発揮してみては?
先日亡くなったアラン・リックマンの名前もここに残したいと思います。2015年は『ヴェルサイユの宮廷庭師』に出演していました。突然の訃報に驚きました。70歳。もっと見たかったなあ。
ラジー賞:『イタリアは呼んでいる』(英),『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』(米)
前者はYさん,後者は私。ま,いい作品を探すにはしかたのないプロセスではあるのだけれども。
2015年はベテラン俳優たちによる名演あり,掘り出し物の珠玉の小品ありと,なかなか充実していたかもしれません。邦画にもうちょっとがんばってもらいたいですけどね。
今年はどんな作品に出逢えるかな。楽しみです。