カトリーヌ・ドヌーヴ、御年67歳。出演公開作が3本続きました。
クリスマス・ストーリー
(2008;仏)
監督:アルノー・デプレシャン(『キングス&クイーン』)
出演:カトリーヌ・ドヌーヴ、アンヌ・コンシニ、マチュー・アマルリック
★★☆☆☆(2.0)
フランス北部の町ルーベのクリスマス。ヴュイヤール家では、母ジュノンの病気をきっかけに、疎遠になっていた子どもたちが家に集う。しかし、家族から絶縁されていた次男アンリの登場で、親子や兄姉間の確執やトラウマ、不安が顔を出す・・・。
豪華キャストによる群像劇。
誰も主役がいない中でも、やはり妻そして母親役のカトリーヌ・ドヌーヴの存在感が大きい。
かつて6歳で白血病と診断された長男と、その長男を救うためにもうけた次男。しかし骨髄の不適合で、もはや“役立たずの息子”となってしまった次男を、『潜水服は蝶の夢を見る』(2007)のマチュー・アマルリックが演じる。
姉役のアンヌ・コンシニとの口論のシーンはすごい。この2人、『潜水服は~』では患者と口述筆記者という関係だったなあ、と思いながら見ていたので余計・・・
タイトル(原題;UN CONTE DE NOEL)が物語るように、これはある家族のクリスマスの、あるストーリーであって、何か結末があるわけではない。家族それぞれがいろいろな思いを抱えて集まっている、群像劇としては見応えのある内容になっている。
しかし、個人的には散漫な印象である。ストーリーが中途半端に途切れたり、セリフや表情がストーリー理解の妨げになったりすることも何度かあった。この場面はいったい何のために?と思うことも。もう一度見てみればその意味がわかるのかもしれないけれど・・・
あと少し、少しでいいのでどこかに焦点を当ててほしかった。正直、評価の難しい作品だ。
隠された日記 母たち、娘たち
(2009;仏・加)
監督:ジュリー・ロープ=キュルヴァル(『正しい恋愛小説の作り方』)
出演:カトリーヌ・ドヌーヴ、マリ=ジョゼ・クローズ、マリナ・ハンズ
★★★★☆(3.5)
カナダで働くオドレイは、久々に両親の住むフランスの海辺の街に帰って来る。医師の母とは昔からそりが合わず、再会しても二人の間にはどこかぎすぎすした空気が漂っていた。結局オドレイは仕事を理由に実家ではなく、亡くなった祖父が生前住んでいた海辺にただずむ家で休暇を過ごすことにする。(シネマトゥディより)
本作でカトリーヌ・ドヌーヴは、医師の母親役、父親を慕う娘役を演じる。
初めに登場するシーンで、久しぶりに帰ってきた娘を、正面から見るのでなく下からちらちらと見上げるシーンは名演である。たった数秒でこの母娘の関係がすぐにわかってしまう、何とも絶妙な視線だった。
作品は、3世代の女性の生き方を同時進行で描くというやや変化球の構成であるが、うまく作り込まれておりわかりやすい。観る前はサスペンス的な要素があるとは全く思っていなかったので、いささか劇的な展開に驚いた。日記を残した祖母(母)が失踪した謎を明白に結論づけず、可能性をにおわせるくらいにしてくれればもっと良かったかなとは感じたが、最終的に“事件”をつきつめなかったのはいい匙加減だったように思う。
娘役のマリナ・ハンズは個性的な女優である。『潜水服は蝶の夢を見る』では主人公の恋人役で、信心深い女性を演じていたのを記憶している。本作でもなかなかの表情なのだが、笑顔や笑い声に工夫がほしかったかな。主演作『レディ・チャタレー』(2006)のように、苦悩や葛藤の表情のほうが似合うのだった。
しあわせの雨傘
(2010;仏)
監督:フランソワ・オゾン
出演:カトリーヌ・ドヌーヴ、ファブリス・ルキーニ、カリン・ヴィアール
★★★★☆(3.8)
スザンヌは毎朝のジョギングが日課の幸せなブルジョワ妻だったが、ある日、雨傘工場を運営する夫ロバートが心臓発作で倒れ、雨傘工場を切り盛りすることに。亭主関白の夫の下で押し黙る日々を送っていた彼女だったが、子ども、昔の恋人、工場の従業員たちの協力を得て予想外の本能が目覚めていく。(シネマトゥディより)
若きオゾン監督が、大女優カトリーヌ・ドヌーヴに演じさせたかった役柄だったかもしれない。そんなお茶目なドヌーヴが見られる作品に仕上がっている。
ある演劇作品をオゾン監督が映画化した作品らしいが、確かに舞台劇のような感じ。ストーリーもわかりやすく、ちょっと意外な結末にも納得。60~70年代のファッションなんかも見ていてとても楽しいし、ドヌーヴが口ずさむ歌もこの作品の見どころである。
最初のシーンで、ドヌーヴ演じるスザンヌが、小動物を見ながらポエムを詠むが、その内容は、ドヌーヴの代表作の1つである『昼顔』(1967)へのオマージュではないかな。もちろん雨傘工場が舞台なのは『シェルブールの雨傘』(1963)だろうけれど。
スザンヌの少女のような表情と反面コケティッシュなしぐさ、そしてラストの堂々とした態度はまさに女性の人生の描写にふさわしい。それをエレガントにかつコミカルに演じきったドヌーヴに見事なまでに魅了された。
私はスザンヌがトラックに乗る時にスカートをたくしあげる場面が非常に気に入っています。
『シェルブールの雨傘』や『昼顔』を観たのは中学生の時だった(今思えば早熟だ)。
ドヌーヴがあまりに美しすぎてまぶしかった。
『ロバと王女』(1970)、『終電車』(1980)、『インドシナ』(1992)・・・ 数々の出演作を観たけれど、それでもまだ一部にすぎない。
これからも、特にオゾン作品で観てみたいと思う。