先日の『チェンジリング』に続き、イーストウッド作品。観たのは4月上旬です。
グラン・トリノ
監督:クリント・イーストウッド
出演:クリント・イーストウッド、ビー・ヴァン、アーニー・ハー
★★★★★(4.5)
妻に先立たれ、息子たちとも疎遠な元軍人のウォルトは、自動車工の仕事を引退して以来単調な生活を送っていた。そんなある日、愛車グラン・トリノが盗まれそうになったことをきっかけに、隣に住むアジア系移民の家族と知り合う。やがて二人の間には友情が芽生えていくが・・・
今回のイーストウッド作品には、意外にも“笑い”が多い。
自らが務める主役のウォルトは、頑固でいつも眉間にしわを寄せている、そんなキャラクターだ。
息子にも心を開かない頑固ジジイが、隣人の移民少年と妙な友情を深めていく大筋の物語には、はじめのうちは大きな見せ所があるわけでもない。
ガレージにある“グラン・トリノ”(フォード車)にも、いったいどんな意味があるのか、後半までわからない。
ひとつの事件をきっかけに、過去の思いと現在の思いが交錯していく。
このあたりの静かな見せ方は、本当に素晴らしいです。
指ピストルが悲しくて、胸がつまりました。
多くの男性ファンの憧れであるクリント・イーストウッド。
この作品をきっかけに、改めてイーストウッド出演&監督作品を数年前にさかのぼって何本か観てみた。
まず、『
ザ・シークレットサービス』(1993年;ウォルフガング・ペーターゼン監督)。
老練なシークレット・サービスを演じたイーストウッドは、ここでも、孤独感を抱えているキャラクターである。
そしてこの作品では、しわの多い首筋にベッドライトの光を弱く当ててみたり、全速力で走った後にゴホゴホと咳き込んでみたり、イーストウッドの“老い”を何度も強調してみせている。
敵役を演じたJ・マルコヴィッチの好演によって、イーストウッドの役柄が引き立った。
少しさかのぼって、『
許されざる者』(1992年;クリント・イーストウッド監督・主演)。
イーストウッドは、すでに足を洗ったガンマン、マニー役。家族のために再び賞金稼ぎに出かける。
敵役は、保安官を演じたジーン・ハックマン。
この作品と『グラン・トリノ』に共通する点は、人の善悪だと思う。
権力の象徴である保安官とアウトローである賞金稼ぎの善と悪。観終わった後の感覚がとても近い。
ちなみに、『許されざる者』は米アカデミー賞作品賞・監督賞を受賞。
そして『グラン・トリノ』と、非常に似ている(と思う)のが『
ミリオンダラー・ベイビー』(2004年;クリント・イーストウッド監督・主演、共演ヒラリー・スワンク)。
この2作品には共通しているのは、神父が登場することや、その神父に対する態度、それからイーストウッド演じるキャラクターが、過去の出来事に罪の意識を感じていること、そして、少しずつ心を開いていくこと、ラストシーンで大切な人を守るために行動を起こすこと(このとき、バカにしていた神父に相談するところも)。
ストーリーだけでなく、映像の細かいところまで非常に近く、クリント・イーストウッド監督の一貫した姿勢を見ることができた。
5年前のこの作品を観て、改めていい作品だと感じた。
こうして新しい視点で作品を観てみると、いろいろ発見するところが多かった。
いつか時間ができたら、「ロー・ハイド」(テレビ西部劇)をだらだらと観たいな…
イーストウッドは、『グラン・トリノ』をもって「もう積極的に役は探さない。いまの映画の役は、みんな若い役者向けに書かれているから。」と語り、実質的な俳優引退宣言を行った。今後は監督業をメインに活動すると語る。(Wikipediaより)