ペルーの激動の歴史。
悲しみのミルク
(2008;ペルー)
監督:クラウディア・リョサ
出演:マガリ・ソリエル、スシ・サンチェス、エフライン・ソリス
★★★★★(4.5)
ペルーの貧しい村。妊娠中にもかかわらず陵辱され、夫を殺されたという母親を持つ、娘ファウスタ。彼女は、母親が体験した苦しみが母乳を通じて子どもに伝わるという病「恐乳病」であると信じて疑わない。苦しみの記憶と歌を残して亡くなった母を埋葬するために、街の裕福な女性ピアニストの邸宅でメイドの仕事を始める…
ベルリン国際映画祭金熊賞受賞、米アカデミー賞外国語映画賞にもノミネートされたこの作品のバックグラウンドには、1980年代に起きた革命集団によるテロ活動がある。
スカートの下に、たくしあげたズボンを履かずにいられないファウスタ。男性の手からキャンディを受け取ることすらできないファウスタ。怖くて怖くてしかたがないのだろう。彼女のあまりに悲しい性と心情に、こちらも心が張り裂けそうになった。
劇中歌の美しい旋律が、なおいっそう悲しみを増幅させる。
しかし後半は、かすかな希望の光が射してくる。
ファウスタのはっきりとした足取りから、何かが変わってきていることが伝わってくる。
口にくわえた、赤い大輪の花がポトリと地面に落ちたときが、ファウスタが自分の心の変化に思い惑った瞬間なんだろうと感じた。
じゃがいもの花がやさしく咲くラストシーンにも薫香が満ちている。ファウスタの未来への希望が静かに描かれた良作。